「……ねえ、ダディ」


「ジョッジュ、眠れないのか?」


夜も更けた頃。子供部屋を見回りに来た父親にふいに声をかけたのはジョッジュでした。


「うん。 ……1つだけ、聞きたいことがあるんだ。いい?」


モーリーは息子との目線が近くなるように、かがんだ姿勢を取りベッドに両ひじをかけました。


「もちろん。何が聞きたいんだい?」


父親の穏やかな表情を前に、ジョッジュは少しだけ後ろめたいような気持ちに包まれました。
それでも、もう後には引けないのだと自分自身に言い聞かせ、モーリーに問いかけました。



「カマトラって…… 何?」


一瞬、モーリーが険しい顔を見せました。そして溜息をつきました。


「しょうがない奴だ…… 一体、そんな言葉をどこで覚えてきたんだ?」


ジョッジュは口元を潜り込ませ、両手の指先と顔の半分だけをベッドから覗かせました。
そして顔色を伺うようにじいっとモーリーを見つめましたが、
モーリーが返す視線に耐え切れなくなると、すぐに目を逸らしました。


「やれやれ、困ったもんだな」


もう一度、溜息をつくと、モーリーは再び穏やかな顔を見せました。


「いいよ、教えてあげよう。特別にだぞ」


その言葉を聞くと、ジョッジュはまだ口元を隠したまま、目を輝かせました。


「鎌虎はな、とても大きな虎だ」


「……虎?」


ジョッジュがわずかに口を開きました。


「そうだ、虎という生き物がいる。とても大きな猫だ」


「……うん、知ってる」


「その虎よりももっともっと大きな虎が、鎌虎だ。
しかも、その両手には普通の虎にはない2本の大きな鎌を持っている。
鎌虎はこの鎌で2つのものを刈り取るんだ」





「1つは、土地の命だ」


「土地の……命? どういうこと?」


「ジョッジュ。おまえは今、土地の上にいる。大地と言い換えてもいい。
おまえが生きているのと同じように、この大地も生きている。土地は生き物と一緒なんだ」


「……よくわからないよ」


「草も木も、そして花もみんな地面から生えているだろう?
それは土地が生きているからなんだ。
すべての生き物は土地に生かされている。土地にはそういう力がある。
だが土地が死ぬと、草も木も、花もみんな枯れて死んでしまう。
これが、土地が生きているということだ」


「…………わからないよ」


「鎌虎はその一部…… ほんのちょっとの部分を刈り取る。
ほんのちょっとだ。心配する必要はない。
そして、次に2つ目だ」


「ねぇ、怖いよ…… ねぇ、ダディ……」


「2つ目だ」


「嫌だよ…… もうやめようよ! ダディ!」


「鎌虎は、生き物の命を刈り取る」


「うう…… ダディ……」


「殺すということだ」



「ジョッジュ。おまえは牛の肉を食べる。サラダも食べる。
お菓子だって元を辿れば、材料は全部生き物の命だ。おまえはそれを食べている。
それと同じことだ。
鎌虎はおまえと同じことをしているだけなんだ」


「怖いよ…… 嫌だよ……」


「恐れることはない。鎌虎は我々と共にある。
感謝の気持ちを忘れるな」


「嫌だ! そんなのわからないよ!」


「……今日はもうおやすみ、ジョッジュ。
いずれわかる日が来る。その時になったらまた話をしよう」


「………………」


モーリーは嫌がるジョッジュの頭をくしゃくしゃと撫でると、
もう一度おやすみと言ってドアをそっと閉めました。






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