虎になったジョッジュ 第3話
2010年3月29日 虎ジョ「珍しいな」
最初に聞こえたのは自分自身の声でした。
「父さんのことを夢に見るなんて」
最初に目に映ったのは、もうすっかり見慣れてしまった天井でした。
この木造で安っぽいつくりの建物をジョッジュは少しだけ気に入り始めていました。
しかし、ジョッジュの心は今この時に限ってはこの仮住まいではなく、
失われてしまった夢の世界に向けられていました。
ジョッジュはまぶたを閉じました。
もう一度だけあの光景を取り戻そうと、意識を現実から遠ざけ、沈ませていきました。
闇の中に記憶の断片が浮かびます。
モーリーが先ほどまでと変わらない穏やかな顔で現れ、微笑みかけました。
「父さんは……」
次に聞こえてきたのは、宿舎の外から鳴り響いた轟音でした。
巨大な生き物がぶつかり合い、魔法使いが叫び声を上げました。
小さな独り言はかき消され、ジョッジュは気を損ねてベッドから跳ね起きました。
(ここに来てどれほど経っただろうか……
毎日毎日、こればっかりだ)
この次元ではプレインズウォーカーたちによる戦いが終わることなく繰り返されていました。
それは他の次元で見られるような命のやり取りではなく一種のスポーツのようなもので、使役できる呪文の種類に制限を設けるルールもありました。
ジョッジュが窓の外を覗くと、そこにはいつもと変わらない平和な街がありました。
戦いは思ったよりずっと遠くで行われているようでした。
(鎌虎……ゼンディカーの野生動物だ。
被覆に分類される力を持ち、比較的少ない量の緑のマナで召喚できるため
魔法使い同士の戦いでは重宝することがある……
そんなことは知っている。そんなことが知りたいわけじゃない。
僕は納得のいく答えが知りたい。
父さんがあれほどまでに執着していた……その理由を。)
この次元には鎌虎を従えた魔法使いは何人もいました。
しかしそのいずれもが常勝のプレインズウォーカーというわけではありませんでした。
(初めは、鎌虎が非常に強力な……最強のクリーチャーだからではないかと考えた。
僕がここに来た日、鎌虎を従えた魔法使いが次々と他のプレイヤーを倒しているのを見てその仮説が合っていたのだと喜んだ。
…………ぬか喜びだった。
鎌虎を使っていて負けた人も大勢いた。)
身支度を整えると、ジョッジュは一際大きな音の響く方角へ向かって歩き始めました。
不自然なまでに優しい光が人工の空を照らしていました。
街は魔力を必要としない高度な機械によって綺麗にされていました。
ジョッジュは木造の宿舎を改めて少し憎らしく思うと、溜息をつきました。
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